重ね透かし梁
エンジニア: 山田憲明構造設計事務所
用途: ホールや体育館等の屋根
使用部材
水平材: ディメンションランバー2×4~212
斜材: ディメンションランバー2×4~212
飼木:ディメンションランバー2×4~212
接合具: ビス
適用スパン: ~15m
長スパンを架け渡すための一般的な木造の組立梁としてトラス梁、アーチ梁、サスペンアーチ梁等があるが、これらは形状が安定しやすい三角形や応力の伝達がスムーズな連力図に近い構造形態にし、その力学的合理性を有用した構造である。この力学的合理性を優先した形態は、部材に様々な角度を持たせることが多いことから、接合部設計、加工や組み立てがやや高度になる。また、これらの組立梁を化粧あらわしにする場合には、それによってできる空間が構造的な志向性を帯びることになる。
一方、縦横材のみで構成する木造の組立梁のひとつに、重ね梁や重ね透かし梁がある。これらは水平にした小中断面の木材を縦に積層させ、積層材間のずれを飼木、ダボ、車知、ドリフトピン等のシアキーを設けることで抑制させ、一体性を高めようとするものである。このため、シアキーの欠損があっても積層材の一定の断面性能を確保できる角材が用いられることがほとんどである。重ね梁や重ね透かし梁の見えがかりは基本的に横材だけになるため、上述のトラス梁とは異なった特徴的な美観を持つ。
以上の背景から、ディメンションランバーの2インチ材を主体にし、簡易に加工・組立ができ、日本の伝統的な美観を持つ重ね透かし梁を考案した。水平な2インチ材を積層するところまでは一般的な重ね梁と同じであるが、2インチ材を材厚分だけ離して合わせた挟み梁の間に、シアキー代わりの斜材を挿入することで積層材間のずれを止める方法を採っている。
この重ね透かし梁の力学的なシステムには2つ側面がある。ひとつは、上述のように積層材間のずれを斜材とビス接合によって止める重ね梁としての側面。もうひとつは、最上段の積層材を上弦材、最下段の積層材を下弦材、その中間の積層材を腹材もしくは束材と見立てたトラス梁としての側面である。後者は、上弦材に加わった鉛直荷重を腹材が下弦材レベルまで伝達し、この力を下弦材と斜材の引張軸力で釣り合わせるというメカニズムになる。
上弦材は、圧縮軸力と曲げ・せん断力を負担するとともに、スパン中間に継手を設ける必要があるが、下段の腹材の上に継手を設ければ、継手による性能低下はほとんどない。継手部には飼木を設けることで一定の曲げ・せん断性能を確保する。また、上弦材の座屈は上弦材の上にOSBや構造用合板などで構面をつくることで抑える。
下弦材は材長が20フィート以下になる場合は継手を設ける必要はないが、それ以上のスパンになる場合は、飼木とビスを用いて十分な引張耐力を持つ継手を検討する必要が出てくる。
スパンや設計荷重の大小に対しては、構成材のサイズに加え、積層する段数と挟み材の枚数、斜材の枚数などで最適な構成を見つけることが可能である。また積層の仕方を工夫することで腹材部分に開口を設けることができ、重ね透かし梁としての軽快な美観を付与できる。