明治清流苑(特養)

丘陵地にふっと現れる。ただよう品のよさにだれもが目を奪われてしまう。南フランスのリゾートホテルを思わせる佇い。

2006年に明治清流苑が開所したとき、通りかかった人々の多くはこの建物が特養ホームとは想像できませんでした。風車のように十字の形をした全景、アーチ型をあしらったバルコニー、真ん中に丸窓をあしらったセンターホール。木造建築ならではの”あたたかみ”が外観からもにじみ出ているかのようです。玄関から中に入ってみる。和洋折衷の内装に落ち着いたインテリア。 光と影のコントラストによる安心感。

そして、どこにいても吹き抜けていくここちよい自然の風。屋内には外観の印象をさらに超える、自然素材がもたらす癒しの住環境が整えられていました。従来の養護施設にイメージを大きく覆した明治清流苑。そこで生活する方々、働く人々が五感で受けとめている幸福感を探ってみます。

明治清流苑

用途: 特別養護老人ホーム
所在地: 大分県大分市
構造: 1・2階/枠組壁工法(木造耐火構造)、地階/RC造
敷地面積: 6931.84㎡(2096.88坪)
建築面積: 2039.03㎡
延床面積: 4469.23㎡(1階/2003.04㎡、2階/1798.33㎡、地階/667.83㎡)
設計: (有)吉高綜合設計コンサルタント
施工: 安藤建設(株)
竣工: 2006年 6月
施設定員: 特別養護老人ホーム(定員47名)、ショートステイ(定員13名)
設計期間: 2004年 12月 ~ 2005年 11月
施工期間: 2005年 11月 ~ 2006年 7月

インタビュー

『福祉は住まい。住まいは人権』...冒険した甲斐がありました。

社会福祉法人 永生会 総合ケアセンター清流苑 理事長 総合施設長 児玉 貞夫さん

およそ老人ホームらしくない。そういう施設をずっと作りたいと思ってたんですよ。高級リゾートホテルか?おしゃれなブライダル施設か?...見まちがえてしまうと言われるのはうれしいですね。日本のこの規模の福祉施設では他に例のないツーバイフォー工法の採用。いわば明治清流苑は“革新的な木の家”と言えるわけですが、その設計上の基本テーマは“大正ロマン”なんです。和洋折衷の“人間的なあたたかみのある空間を”カタチにできて満足しています。

私は北欧を中心に海外の施設を視察してきました。北欧には『福祉は住まい。住まいは人権』という思想があると聞きましたが、住まいに対してのこだわりをいろいろな場面で深く感じ取ることができました。高齢者と住まいの問題は様々な試行錯誤を経て老人ホームにも大きな影響を与えているようで、高齢者が永年暮らしてきた環境の延長線上に老人ホームも位置づけられ、住空間は日本に比べて格段に広く、設備やインテリアも豊かでまさに“住まいに”対する基本的な考え方のちがいを実感しました。建物はシンプルでしたが、木造の良さを生かした施設より住宅という感じで、この作りを日本でも取り入れられたらと思いました。

諸外国に対し日本のホームは“療養施設=病院”というモデルで建てられてきたと思います。居室は鉄筋コンクリートの硬さと冷たさが当り前の世界。私が木造のホームを推奨するのは高齢者のためだけではありません。そこで働く職員の健康面、心理面に与える優れた性能があるからです。さらに家族の皆さんが、誇りをもって訪れていただけることは、これまでのホームでは考えられない情景でした。『本当にこのホームでうちの人を見送ることができてよかった』と語っていただき、私たちはこのホームを建てたことが間違いでなかったと確信できました。日本で諸外国と同じような木造の特養施設の建築が可能になった出発点は、2004年、ツーバイフォー工法にようやく耐火構造の国土交通大臣認定(※参照)が下りたことですが、そこから先にもハードルはいくつもありました。主なところは...

(1) 木造建築のオーソリティで、かつ介護の仕事に精通している設計士、技術者がいるか?
(2) 建物として行政の許可を取るのに手間取らないか?
(3) 前例がないゆえにコストが割高になってしまうのではないか?
(4) 経年劣化に対しどんなメンテナンスが必要になってくるか?
ということです。

(1)については、全体のプロデュースと設計を、同じ大分が地元の設計士さんにお願いすることで万全の体制がとれましたが、構造計算をできる人材が見つからず、実は一時は中断しかけたのです。ツーバイフォーの構造計算ソフトさえないという日本の現状...。設計はしたものの建築確認がとれません。困っていた中、ようやく大型木造の構造計算のできる方を見つけ「なんとかなる!」ところまで漕ぎ着けました。上がってきた構造計算資料は従来のRC工法のそれと比べ、3倍のボリュームでしたね。

(2)に関しても未知数で心配でした。ところが、当施設は補助金が入っていない行政のしばりを受けない条件のせいか、時間的制約を受けずに進み、思ったより早く建築許可が下りました。構想・設計からおよそ1年半後、GOサインが出ました。

(3)も危惧するところでしたが、結果的にRC工法に比べ2割ほど建築コストを抑えられた計算となりました。

(4)については今後の課題で見守っていきます。開所してまる4年をむかえ、ベランダの木の腐蝕止め塗装を一度やったところですが、その他に目立った不具合は今のところありません。

とにかくすべてが冒険でした(笑)。今後このような入居者にも職員にもやさしい木造の福祉施設が全国に増えることを願い、お伝えしたいことは、木造ツーバイフォーは柱や梁がない代わりに、構造上部屋のスパンが限られてきます。検討する際には、

● 全体の設計コンセプトとユニットケア体制に緻密な計画を立てておくこと
● 部屋計画をしっかり練り込んでおくこと
この2つが大切だと痛感します。そして何より『施主、設計者、施工者の介護への思いが一致すること』が大前提なのは言うまでもありません。

(※参照)カナダ林産業審議会(COFI)と日本ツーバイフォー建築協会の協同により、ツーバイフォー工法の主要構造部すべてにおいて、耐火構造としての国土交通省大臣認定を2004年4月に修得。木材を強化せっこうボードやアルミニウム箔で耐火被覆することにより、木造建築物が耐火構造として日本で初めて認められた画期的な基準です。これにより、木造ツーバイフォー建築物に対する階数や面積並びに用途上の規制が大幅に緩和され、防火地域でのツーバイフォー住宅(100超)や4階建ての共同住宅、さらには商業施設、ホテル等の建設が可能になりました。