2009年 9月
日経ヘルスケア :  

2×4工法によるコスト削減で、安定的経営を目指す特養

日比野 浩之
日比野 浩之
社会福祉法人成祥福祉会高齢者福祉施設
岩崎あいの郷施設長
大井 幸次
大井 幸次
大久手計画工房
一級建築士

住み慣れた地域で、普通に暮らしたいという願いを叶える場所として、地域密着型介護老人福祉施設が注目を浴びている。09年7月に特別養護老人ホーム「あいあいの郷」をオープンしたばかりの社会福祉法人成祥福祉会日比野浩之氏と設計監理者である大井幸次氏に、安定経営を可能にする施設づくりについて語っていただいた。

一人あたりの建築費から建物のあり方を考える ―「あいあいの郷」建築にあたり、2×4(ツーバイフォー)工法を選ばれた理由をお話ください。

日比野

私どもの施設では、入居者の方に「今まで通りの普通の暮らし」を実現していただきたいと願っています。「あいあいの郷」は3ユニットで定員29名の小規模の建物になりますから、まず、自宅に近い住宅をつくりたいと考え、木造という選択が比較的早い段階で決定しました。次にコスト面で、これまでの特養だと一床あたり1200万円かかる費用を半減したいという思いがありました。例えば、名古屋地区で考えると、4人家族用の1戸建ては2000万円が目安で、1人あたりの建築費用は約500万円です。高齢になって身体が不自由になればそれなりの設備は必要だとしても、何とかコストを下げられないかというのが課題でした。そこで600万円台を目標に掲げ、様々な検討を行った末、ツーバイフォー工法に至ったわけです。その結果「あいあいの郷」では、入居者1人あたりの建築費用を641万円に抑えることができました。

大井

国が木造を取り入れようとしている背景や、調整区域内で広い敷地を活用できる条件設定もよかったと思います。準耐火の枠の中での選択になりますから、RC造でも木造在来工法でも可能ですが、コストを念頭に置くと、これだけ安くするのは他の工法では難しいと思います。

日比野

ツーバイフォー工法の良さは、基本コストが均一なことですね。平米単価がいくらか分かりますので、材料の量によって総額が計算できます。

大井

在来工法では、使う部材の等級によって単価が異なります。長いもの、太いものは当然高くなってしまいます。

「素足で暮らす」開放感が居住性の良さを引き出す ―「自宅に近い環境づくり」という点では、いかがでしょうか。

日比野

地域の中のごく普通の家を実現するために、それぞれのユニットに玄関を設けました。木彫建具で引き戸といった、和風の佇まいです。また「素足で暮らす家」がコンセプトですから、個室と食堂はフローリング、居間と廊下は畳を採用しています。廊下が畳だと、入居者も来訪者も皆さんが素足になります。

大井

畳になると、廊下が廊下ではなくなるということに驚きを感じましたね。移動スペースのはずなのに、座ったり寝転がったり、思い思いの姿勢でくつろいでいます。確かに、自宅であれば疲れたときや足が痛いときなどは這って移動することもあるでしょうし、居間も廊下も関係なく過ごしているはずです。廊下を畳にしたことで「こんなに使えるスペースを今まで無駄にしていたのか」という、新たな発見ができました。

日比野

入居者の7割以上の方が車椅子なので、はじめは「畳の上に車椅子」という抵抗感を抱かれるのではと懸念しましたが、皆さんすんなりと受け入れてくれましたね。ポリプロピレン性の畳で丈夫ですし、クッション性があるので転倒時の事故減少や職員の疲労軽減にもいいようです。

大井

実は、私はツーバイフォー工法による設計は初めてなので、馴れた方なら普通はしないことをやっていたように思います。既成概念にとらわれず自由に設計してから、ツーバイフォー工法にあてはめていった感じです。それは空間の取り方などに現れていて、今回の廊下も採光や通風を考えてハイサイドに窓を設けたため、入居者にとって一層居心地のよい場所になったように思えます。

日比野

当初は在来工法で設計をスタートし、あとからツーバイフォー工法に変更したので無駄な部分があったかもしれません。吹きぬけ部分を減らそうとか、でもデザイン的には譲れない部分もあるとか、微調整を繰り返しました。発注者サイドからすれば、それがなければ500万円台も可能だったのではと思いますが、現在の仕上がりと居住性、コストには非常に満足しています。

特養におけるツーバイフォー工法の評価と課題 ― オープンしてまだ間もないですが、ツーバイフォー工法の評価はいかがで すか。

大井

ハード面でいえば、10人という小規模の単位でつくるので、大空間が必要ありません。個室や食堂に加えて10人が集まれる居間があればいいわけですから、一室8~12畳あれば十分。つまり壁が多い建築物になるので、ツーバイフォーの枠組壁工法の特性と合致するんですね。また、天井裏に空間があり、複雑な梁も無いことが様々な設備の組み込みを楽にしてくれました。福祉施設はどうしても設備が過多になりがちですから。それと、建築時期が冬だったのですが、同時期に担当していたRC造の建物より現場が暖かい感じがしました。木のぬくもりというのでしょうか。

日比野

耐震性などの安全面でも信頼できますし、気密性、断熱性に優れているというイメージも強いです。これは法人役員の間でも一致した見解でした。コストも含めて合理性から考えると、やはりツーバイフォー工法の評価は高いですよ。
課題を挙げるとすれば、グループホームを大きくしたような、この規模の建物を建てる建築会社が少ないことでしょうか。大手ゼネコンはこのサイズにあまり経験がないし、ハウスメーカーでは延べ床面積が約300坪という家をなかなか建てられない。

大井

大規模な施設でもなく、小規模住宅でもないという「すき間建築」にふさわしい業者がいないのが現状です。設計者サイドからの課題は構造計算のソフトです。計算依頼をしたところ想定外の数字があったようで、ソフトにバグがでたそうです。ソフト開発側とも連絡を取り合いましたが、ツーバイフォー工法を計算できるソフトのキャパシティがもっと広がるといいですね。

これからの特養に欠かせない安定的経営とは ― 小規模特養の安定的経営には、何が必要でしょうか。

日比野

イニシャルコストをいかに下げるかですね。「あいあいの郷」では家庭用エアコンを各室に設け、給湯器を1ユニットにつき3台配置しました。配管を引くよりもコスト的に安くなるし、メンテナンスも楽になります。こうした設備導入は当法人の他の施設でも経験済みで、イニシャルコストだけでなくランニングコストも数段下がるし、故障しても1カ所だけの修繕で済みます。また、建設と設備を分離発注したので中間マージンがなくなり、よりローコストを実現できたと思います。6月に実施した当施設の視察会参加者からは「この金額で本当にできたの?」「信じられない」という声が圧倒的でした。それならやってみたいという方もいましたし、実際に既に着工している方もいます。

大井

準耐火で建てるなら、プラスターボードの加工が発生してきます。今回は現場で加工を行ったところ、天気の影響を受けました。次の機会には工場加工か現場加工かを比較して、コスト削減に貢献したいですね。

日比野

私どもの職員配置は1.6対1ですが、職員を増やさないとケアの現場はよくなりません。例えば1億円借りたとして、年間の返済額がおよそ700万円になるなら、職員2人分の賃金に相当します。イニシャルコストを下げれば借入金が減らせ、人件費に回す余裕が生まれますし、同時に小規模特養では管理部門が圧縮できるので、事務室も職員用の設備も小さくて済みます。利益が出ない、経営が厳しいと小規模特養が敬遠されているようですが、実はそうじゃない。この規模で3施設あれば100床近くなりますから、残る利益からいえば大規模施設よりいいのではないでしょうか。しかも、小規模特養には交付金が出るという追い風が吹いています。入居者1名350万円として29名で約1億円。イニシャルコストさえ下げれば小規模特養は大きなチャンスだといえますね。

2×4工法によるコスト削減で、安定的経営を目指す特養

あいあいの郷(特養)

あいあいの郷

用途: 特別養護老人ホーム
所在地: 愛知県春日井市
構造: 木造 枠組壁工法
敷地面積: 1,995.42m²
建築面積: 1,090.00m²
延床面積: 1,090.00m²
設計: 大久手計画工房
施工: (株)大栄コンストラクション
竣工: 2009年 6月
施設定員: ユニット数×3(29名)