2014年 3月
日経ヘルスケア :  

高齢化の課題解決に貢献する耐火木造ツーバイフォー工法とは

藤嶋 三也
株式会社ニコム
設計室次長
石橋 伸彦
社会福祉法人神聖会
理事

高齢者の住まいとして、福祉施設が抱える課題は多い。食事やプライバシー、安全への配慮は勿論のこと、入居者や家族が満足できる暮らしにするためには優秀なスタッフの確保も大切な要素になる。平成26年3月にオープンするツーバイフォー工法による木造耐火構造でできた全室個室ユニット型の特別養護老人ホーム「アンスリール」は、独自の経営手法でその課題に挑んでいる。施主の社会福祉法人神聖会理事の石橋伸彦と、設計を担当した株式会社ニコムの藤嶋三也氏に話を伺った。

経営理念は「普通であること」

豊かな自然が残る千葉県白井市は首都圏のベッドタウンとして開発された千葉ニュータウンの一画を占めている。昭和40年代に開発が始まったことから、社会福祉法人神聖会は地域の高齢化に備え、平成8年に特別養護老人ホーム「菊華園」を開設した。そして、この3月に新しくツーバイフォー工法による木造耐火構造(以下、ツーバイフォー耐火木造建築)の次世代型介護施設「アンスリール」(フランス語で笑顔の意)をオープンする。
 
まず、経営理念について伺うと、石橋氏は「普通でありたい、ということです」と意外な言葉を返してきた。これまで普通に暮らしてきた人が、高齢になって施設に入るからといって特別になるわけではなく、住まいを変えただけという意識でその後も普通に暮らしてほしいからだそうだ。それを実現するためにこだわっているのが、「食べる喜び、暮らす喜び」だという。
 
現在運営中の「菊華園」での食事は、特殊な酵素を使って食材をそのままの形で柔らかくする「凍結含浸法」を導入し、入居者から好評を得ている。「食事
は、美味しそうに見えることが大切でしょう。見た目は普通の煮物と同じタケノコやレンコンが舌でつぶせる柔らかさだったら、歯や嚥下機能が衰えた高齢者にも、ミキサー食やゼリー食より食べる喜びを感じでもらえますよね。それが、普通に食事することだと
思うんです」と話す。
 
そして、「暮らす喜び」のために選んだのがツーバイフォー耐火木造建築だ。木造の持つあたたかさや安全性は、安心を前提とした普通の暮らしを実現するのに大きく貢献してくれるという。

木造建築で叶える普通の生活とは

石橋氏とツーバイフォー耐火木造建築との出会いは、新施設建築計画が浮上した3年程前にさかのぼる。系列法人のスタッフから「新しく建てるなら木造もいいのでは」と先進事例の掲載された雑誌を手渡されたことがきっかけだった。そこで木造に関する情報を収集し、そのコストメリット、躯体の持つ柔軟性による転倒時の安全性、地震や火事に対応した設計、心身への良い影響、環境への配慮等を知り、多くの木造による福祉施設の設計実績をもつニコムに直接連絡をしたそうだ。
 
最終的に木造を選んだ決め手となったのは、山形県にあるツーバイフォー耐火木造建築の施設を見学し、その心地良さを体感したこと。「まず、気密性と断熱性が印象に残りました。空気感がまるで違うんですよ。スキーヤーがいるような寒い季節だったのですが、暖房無しでも心地良い。乾燥も抑えられていて、これはお年寄りに喜ばれるだろうと感じました」。オーナーの想いを形にすると同時に、事業を成功へと導く設計サービスを行なう藤嶋氏も「ツーバイフォー耐火木造建築なら、石橋さんのしっかりした理念を具現化できる」と感じ、設計を引き受けたという。
 
また、コストメリットも「普通の実現」には見逃せないポイントになっている。RC造(鉄筋コンクリート)、S造(鉄骨構造)とツーバイフォー耐火木造
建築を比較すると、建築コストや工期の短さが明らかで、建築後のランニングコストも格段に抑えられる。「安かろう悪かろうではなく、質が高いのに低コストというのがツーバイフォー工法の最大の魅力。施主にも利用者にも満足していただける要素でしょう」と藤嶋氏。石橋氏も「安く作った分、利用者にコスト還元できるのがいいですね。所得が低くても、施設を選択肢のひとつにできる可能性が高まりますから」と話す。

脱・和風、コンパクトが 施設のコンセプト

「アンスリール」は延べ床面積4713㎡、木造枠組み壁工法(ツーバイフォー工法)耐火構造の2階建て建築物で、10ユニット(100室)の大規模な施設だ。設計ポイントは、脱・和風。これから10 〜30年後を想定した時に、高度成長期に洋風の暮らしをし、畳よりもフローリングやイスに馴染んでいる高齢者がボリュームゾーンになってくるからだ。外観のデザインは街並に馴染みやすい南欧風で、施設らしくない印象にした。室内からも和風を排除し、フローリングを活かした普通の住宅らしい設えにした。
 
最も重視したのがスタッフ動線だ。土地に余裕はあったが、あえて共同スペースのリビングや廊下をコンパクトな設計にしたという。特に廊下幅は180cmと規定ギリギリにして、スタッフの負担軽減に務めた。何往復もすることを考えると、廊下幅90cmの差は大きな違いを生む。入居者にとって廊下は広い方が安心だと思われがちだが、実は広ければ広いほどダイレクトに床に倒れてしまう。壁の近くで倒れれば、壁が受け止めてくれた分だけ衝撃をやわらげるので、転倒時のリスクを減らせる。その意味でも、廊下幅を狭くする意義は大きい。また、こうしたコンパクトな設計は、入居者側に「施設というよりちょっと広めの住宅」と
いう印象を与え、普通らしさの演出に役立ってくれる。

先進的な取組みが 福祉施設にもたらすもの

福祉施設の運営でのもう一つの大きな課題は、人手不足だ。石橋氏も「介護は人があって初めて成り立つもの」と考え、スタッフ確保や育成に気を配っている。人材募集では、介護系以外の学部や知識・経験のない人も積極的に採用。石橋氏が千葉県全体の人材研修担当ということもあり、教育にも積極的だ。また、「アンスリール」には職員が優先利用できる託児所を完備するなど、子育て中でも安心して働ける環境を提供している。公私ともにバックアップする社風とともに、工夫を凝らした食事やスタッフの負担を軽減する木造での施設建設等の先進的な取組みは、人材確保のための武器になる。
 
石橋氏は「普通であることを実践するのは、スタッフひとり一人です。法人としてのルールはあるけれど、各ユニットでの生活に関しては、自分の家をどうしたいかで決めるよう伝えています。これは、自分の理想を持てという意味で、理想なくして目標は語れないと考えているからです」と話し、普通という言葉にこだわることで、「スタッフも入居者も背伸びせずに暮らしてほしい」という思いを語った。
 
最後に、今後の見通しについて伺うと、石橋氏は「現状で国全体に特養の待機者が40万人以上いると言われていることから、今後も施設は積極的に建てることになるでしょう。ツーバイフォー工法も増えると思いますよ。実際、うちの取組みを見て木造での建築に踏み切った同業者もいます」。藤嶋氏は「木造はひとつの選択肢ですが、コストメリットを生かせる工法です。それが、法人の経営にも貢献してくれるのではないか」と分析してくれた。 

特別養護老人ホーム「アンスリール」の建築概要と完成イメージ