2011年 12月
日経ヘルスケア :  

環境と心地よさでツーバイフォー耐火木造建築が選ばれる時代

前田 隆史
社会福祉法人善心会
理事長
前田 計子
社会福祉法人遊々会
理事長
吉高 久人
有限会社吉高綜合設計コンサルタント
代表取締役

「平成22年度木のまち整備促進事業(」国土交通省補助金事業)として採択され、ツーバイフォー耐火木造建築として建設された特別養護老人ホーム「かざみ鳥」。そのメリットについて、施主の社会福祉法人善心会理事長 前田隆史氏と社会福祉法人遊々会理事長 前田計子氏、設計監理の吉高綜合設計コンサルタント 吉高久人氏に話を伺った。

入居者にくつろいでもらえる施設を探求

香川県善通寺市にある社会福祉法人善心会は、地域密着型医療を提供する善通寺前田病院を中核に平成14年に設立された。介護老人保健施設や認知症グループホーム、デイケア、デイサービス、ケアハウスなど多岐に渡って福祉サ ービスを提供している。2011年11月オープンの特別養護老人ホーム「かざみ鳥」は、延べ床面積約3000㎡、地上3階建てのツーバイフォー工法による耐火木造建築の施設で、5ユニット(50室)にショートステイ(10室)、デイサービス(30名)も併設されている。

「かざみ鳥」建設にあたり木造を選んだ理由は、「冬は暖かく、夏は涼しい。なにより高齢者に優しいという話を聞いたことが決め手になった」と前田隆史氏(以下前田氏)は話す。夫人の前田計子氏(以下計子氏)の耐火木造との出会いは、ひときわ印象的だ。同業者の勉強会で耐火木造建築の施設見学会に参加した人から「あれはすごかった」という感想を耳にし、「自分の目で確認してこなくては」と一人で吉高氏設計の「ナーシングホームはるかぜ」まで足を運んだそうだ。その際に感じた「RC造と木造の皮膚感覚の違い」が衝撃だったという。その施設は、中央部がエレベーターホールのあるRC造で、左右に耐火木造建築を配した設計。数歩移動するだけで、RC造と木造の違いを体感できる造りになっている。「靴下でいえば、ナイロンと絹くらい違う。あそこに立てば、誰でもそれがわかると思います」と計子氏。

心地よく過ごすためのノウハウが満載

「かざみ鳥」の施設内を歩いていると、カラッとした爽やかさを感じる。これは、吉高氏設計の特長のひとつである、風通しを計算した構造に起因している。空調に頼るのではなく、空気の流れをよくすることで自然で心地よい空間が生まれるという。また、木造は結露が生じにくくカビも生えにくいことから、掃除もラクで衛生的。居住者にもスタッフにもうれしい要素だ。

意匠的には、インナーバルコニーやサービスバルコニーが豊富に取り入れられている。一見無駄な空間に思われがちだが、洗濯物を干したり植木を置いたり、居住者の暮らしに添う使い方ができるし、外ではないが室内でもないという中間的領域として、「縁側的感覚」で重宝されるという。

屋根瓦には、特殊鋼板を基板にして表面に天然石をコーティングした屋根材を使用。見た目に美しく、防火性に優れていると同時に、㎡あたり約4kgと和瓦に比べて約1/10と軽量なので、スタ ッド(柱)の数を減らすことができ、コスト削減にも貢献してくれている。

隣棟間隔を設計する上で考慮されているのが中庭スペースだ。冬場の陽射しを計算し、広さを算出するという。建物内にいても陽射しを感じられる空間となっているので、入居者の満足度を高めている。最近の傾向として、国や地方自治体が地産地消を推奨する施策をとることから、「かざみ鳥」では中庭に四国名産の庵治石を砕いたものを敷いた。建物がほぼ完成してから造園作業を開始したことで、建物のグレードに合った作庭となったことも自慢のひとつだ。「この建物に負けない庭にしたいと、造園側も励みになったようです」と前田氏は話す。

エレベーターホールから居室に至る通路には、美術に造詣が深い計子氏の希望で、フロアごとにテーマを設けたギャラリースペースを設置した。「疲れが抜けない朝でも、絵を見ると元気が出ます。入居者の方にも絵の力を分けてあげたいと思っています」。

ツーバイフォー耐火木造建築がもたらすメリットとは

ツーバイフォー耐火木造建築で施設を建設するメリットは、まずRC造よりも建設コストが安いことがあげられる。重量が軽いため基礎工事のコストダウンが可能で、工期の短縮ができるため人件費や保険料、光熱費も削減できる。地球環境への負荷を低減できるのも魅力だ。地球温暖化の原因とされる温室効果ガスをCO²に換算した場合、資材生産過程で発生する地球環境への負荷は、大幅に減少するという。

さらに、断熱性・気密性に優れていることから、光熱費などのランニングコストも低減できる。RC造とツーバイフォー耐火木造の両方の施設を持つ法人では、木造だと夏はあまりクーラーを使わず、冬も足下からくる寒さが緩和されるせいか、ランニングコストはRC造よりかなり安いという報告もあがっているそうだ。減価償却の期間がRC造は39年、木造は17年という短さも、経理上のメリットとなる。

そしてなにより、木造は住まいとしての諸性能が優れている。転倒しても骨折しにくい、スタッフの疲れ方が違うことから入居者への接し方にも余裕が生まれるなど、木の持つやわらかさが安心感や落ち着きをもたらしてくれるのだ。吉高氏は「確かに耐火木造建築は建設コストを安くおさえられる方法は多岐にわたりますが、実際には地盤の状態や仕上げ材の選び方でイニシャルコストが大きく変わってしまうのも事実です。住み心地のよさや環境への配慮、日本人古来の木の文化を取り戻すという視点でこの工法を選ぶことが、次世代へのメッセージになるのでは」と提言している。

耐火木造による施設の今後の課題

団塊世代の後期高齢者への突入が目前に迫っている現在、福祉施設の建設も右肩上がりの増加が見込まれている。大型施設ではまだRC造が主流だが、 2004年度にカナダ林産業審議会と日本ツーバイフォー建築協会が耐火構造としての国土交通大臣認定を取得したことにより、耐火木造による施設も、以前より大きく注目を浴びるようになってきた。

吉高氏は、「木造の施設が注目されるのはいいことですが、耐火木造の実績のある施工業者がまだ少ないことが課題です。耐火木造を建築できる業者を増やすことが重要」と語る。
 
前田氏は、事業計画の段階できちんと話し合うことが大切だと主張する。施主側には、1床あたり「いくらで作りたい」という目標もあるが「、せっかく作るのだからこうしたい」という夢もあるはず。そこを納得するまで話し合うことが肝要だという。

「施設を作るときは、自分がここに入るんだという思いで作っている」という前田氏は、入居者の目線で心地よさを探求し、そこに自分のこだわりを入れて事業計画を立てていく過程が何より楽しかったそうだ。木造が、施主の醍醐味を味わうのに一役担っているのは間違いなさそうだ。

かざみ鳥(特養)

かざみ鳥

用途: 特別養護老人ホーム
所在地: 香川県仲多度郡
構造: 枠組壁工法 木造耐火構造 3階建 
敷地面積: 3,597.47㎡
建築面積: 1593.51㎡
延床面積: 2,978.52㎡(3,591.52㎡バルコニー含む)
設計: (有)吉高綜合設計コンサルタント
施工: 三井ホーム(株)
竣工: 2011年 10月
トラス概要: トラススパン:12.285m(最大) @910mm~2,130mm
施設定員: 1F~3F 各階2ユニット(20名) 1F デイサービス(30名)