2012年 11月
日経ヘルスケア :  

木造が実現する、 なごやかに暮らす「家」の創造

山田 一之
社会福祉法人 信愛
副理事長 統合施設長

社会福祉法人信愛は、自分らしい生活の支援を運営理念としており、施設感を排した「家」作りに力を注いでいる。2012年6月に新たに開設した特別養護老人ホームに、ツーバイフォー耐火構造の木造2階建て建築を採用。統合施設長の山田一之氏は、整備に至った経緯を語り、木の持つ介護力を最大限に活かした建物の効果を強調した。

施設ではなく人が集う家を作る

同法人は2004年に設立され、事業に「まんてん」という愛称を冠し、「のんびり、ゆったり、ほがらかに。いつまでも自分らしい生活のお手伝い。」という運営理念の下、滋賀県北東部(湖北地方)で介護事業に取り組んでいる。05年、最初の事業となる認知症対応型グループホーム「まんてん塩津」(9床、鉄骨平屋造り)開設に当たっては、多くの施設を見学した末、施設ではなく、人が集い、なごやかに暮らす「家」作りをコンセプトに定めた。その後も、グループホーム、小規模多機能ホーム、デイサービスセンターなどを展開している。

介護基盤の緊急整備特別対策事業(08~11年)の呼びかけに応じ、まんてん塩津の増設とともに特養の新設を決めた際も、効率の良い大規模施設でなく、小規模な「家」づくりにこだわった。ユニットケアで、グループホームのような地域密着型の特養(29床)を、コストを抑えて木造平屋で作ることを決めた。しかし、結果的に平屋を建てられる広さの土地を確保できなかった。2階建ての鉄骨造りにしなくてはならないと断念しかけた矢先、カナダ高齢者施設見学ツアーを知る。

カナダには、3階建ての木造建築であったり、積雪にも耐えて築100年以上の木造の福祉施設があるという。山田氏がツアーに参加すると、実際にはそれ以上で、福祉施設のほとんどが木造建築で広大な土地と調和してゆったりと建てられ、地域住民と歓談するスペースも設けられていた。ツーバイフォー工法の詳細を学び、木造の可能性に開眼させられて、採用を決めた。

認知症に効果の高い木造の介護力

ツーバイフォー工法(耐火構造)を採用した特養「まんてん塩津」(29床)は、 12年6月に竣工した。併設事業はないが、地域交流スペースを設けた。敷地は437坪で、床面積は1階が193坪、2階が191坪。起工は1月だが、積雪のために本格的な地盤工事開始は2月半ば過ぎで、実際の工期は6カ月より短い。総工費は2億5524万円(坪単価66万5000円)で、1床当たり880万円と、特養の相場である1100万円より2割も安い。

前述のカナダツアーで知り合った高名なインテリアデザイナーに総合プロデュースを依頼したことで、建物内外のデザインは随所に工夫が凝らされ、地域の「家」さながらの和風の造りとなった。建物が持つ介護力が最大限に活かされる構造で、特養入居者の大半を占める認知症の高齢者には大きなメリットになった。
 
認知症の中核症状には記憶障害があり、居場所が識別できない失認などの障害が生じ、施設のような親近感のない空間では混乱が助長される。これに対して、「まんてん塩津」は、自宅ではないながらも、知り合いの家に泊めてもらう感覚で、納得して過ごすことができる。帰宅願望は非常に少なく、1週間程度で落ち着いて、時とともになじみの空間となり、自分の居場所が確保される。
 
内装も、生活導線への配慮が施され、心理学を応用したカラーリングとインテリアが配された。

「家」であれば、裸足で暮らすことも多い。裸足で木の床を踏みしめることは、リハビリテーション効果にもつながる。職員も裸足で、床が汚れればすぐに清掃できるので、清潔な空間が保たれる。車いすに頼るだけでなく、床が清潔なので、そこを這うように移動することもできる。裸足で生活できる環境を実現したことで、居室以外は全面床暖房を採用したことも大きな特徴だ。

ユニットのダイニング(共同生活室)は、天井が低めでコンパクトな空間となり、空間認識力が衰えた認知症の利用者に有用である。くつろぎの空間で、おやつを自分たちでつくったり、イベントを開催するなど、和やかな娯楽スペースともなっている。各居室は、畳のような雰囲気にして、ベッドでなくても生活できる。自室の洗面台以外に理美容コーナーがあり、通いつけの美容師に来てもらえるのも、地域密着型ならではだ。

コスト面も施設面も利点が多い

木造建築はメリットが多いが、最大の利点はコスト面で、重量が鉄骨より軽いため基礎工事費や解体時の費用が抑えられる。また、法定耐用年数は、RC造の39年に対して木造は17年と、減価償却期間が短い。20年後に高齢社会がピークを迎えた後に、次の事業展開を考慮しやすくなる。また、社会福祉法人には環境負荷への取り組みも重要だが、循環型資源である木材の利用により、二酸化炭素排出量を削減できる。
 
木の香りは安らぎを感じさせ、木の持つ力は心と身体に様々な良い影響を与える。情緒の安定、過乾燥の抑制(木の調湿作用)、集中力の向上、などがもたらされている。
 
また、特養に転倒は付き物だが、木の床には転倒時に骨折しにくいという大きな利点がある。スタッフも履き物を履かないため、そのことに慣れれば足の蒸れもなく、木の床で足腰へかかる負担が少ないため、疲れが軽減されると好評である。

耐震性・耐火性・耐久性で勝る

ツーバイフォー工法は、規格材を使用するので品質の均一化が図れる上、ムダのない工法のため短期間で建設できる。人件費・保険料などが削減できるため、コスト面では非常に有利である。また、気密・断熱性能が高く、光熱費も低減でき、今夏も最低限の冷房で乗り切れた。床暖房は深夜電力による蓄熱式だが、冬の寒さも凌げると期待されている。
 
東日本大震災後、安全面が注目されているが、この点でも優れている。柱と梁で建物を支える工法と違い、6面で建物を支えるため、地震や台風に非常に強く、変形しにくい。耐火性も高い。北米で100年以上住み継がれていることから見ても、適切なメンテナンスによって、 RC造と比しても遜色なく長持ちさせることができる。
 
設計にあたっては、いくつか事前の留意点もある。耐火建築物の設計は、日本ツーバイフォー建築協会の認定者が行い施工時の検査も同協会認定の耐火構造工事検査員が行うことが望ましい。耐火構造は施工途中での間仕切りの高さや変更ができにくいため、計画段階で細部までプランを造り込むことが肝要だ。また、天井と床が太鼓のようになって音が響きやすくなる恐れがあるため、施工上の工夫が必要となる。
 
開設2カ月余りで、建物や環境が介護を助けることが強く実感されている。利用者の帰宅願望が少なく、なじみの関係が早く構築されることは職員にも好評で、慢性的人材不足の介護業界にあって職員定着の効果も得られている。
 
同法人では、県内で新たに計画中の施設もツーバイフォー工法の採用を予定している。山田氏は、「利用者の笑顔がいつまでも見られるよう施設運営を続けていきたい」と結んだ。