2013年 11月
日経ヘルスケア :  

地方都市・中山間地域における 地域包括ケアモデルの構築と実践

中山 辰巳
中山 辰巳
公益社団法人 全国老人福祉施設協議会
理事

社会福祉法人青森社会福祉振興団は、本州最北端にある青森県むつ市を拠点として、介護・福祉事業を展開している。専務理事の中山辰巳氏は、高齢化を迎えた団塊の世代のもつ多様なニーズに応えるため、医療と介護の連携に留まらない、“融合”の方向性を示唆し、その拠点として建てた木造ツーバイフォー建築による施設の効用を解説した。

人手不足などから 効率化が重視される介護事業

同法人があるむつ市は、典型的な地方都市であり、人口は約6万2000人で、4人に1人が高齢者で、うち独居高齢者が2000人近い。同法人では、都市型とは違う地方型モデルを模索している。
 
中山氏は、今後の介護ビジネスのターゲットを、約850万人いる団塊の世代と位置付けた。さらに、その特徴について、高学歴である、自己で意思決定をする、文化芸術に親しんでいる、可処分所得を有する、などと分析した。
 
今後は、こうした団塊の世代にマッチした介護ビジネスを展開していく必要性がある。そこでは、医療と福祉に加えて、食・生活・文化の融合が求められ、生活の潤いも重視されるようになる。今後、地域包括ケアにおいては、一体的なサービスを提供しなくてはならず、あわせて、IT化、機械化も推進されていく。
 
中山氏は、「地域包括ケアにおいては、“連携”という考えでは不十分で、それぞれの物を捨てて新しい物を作り、“融合”させていくべき」との方向性を示した。
 
こうした事業展開において、とりわけ深刻な課題が、介護の担い手となる人材不足であり、今や施設においても“老老介護”になりつつあるのが実態だ。加えて、次期の介護報酬改定では単価の大幅減が見込まれている。一方、ハードのコストは上昇し、効率化を重視しなければ、介護ビジネスが成り立たない時代が到来しているとされる。

イニシャルコストが削減できる木造ツーバイフォー建築

そうした融合の拠点で、かつ効率化の観点からも好ましい建築物として、同法人が、新たに特別養護老人ホーム、および医療と介護を融合したメディカルケアセンターに採用したのが、木造ツーバイフォー工法による、耐火構造、2階建ての建築物である。
 
かつて、特別養護老人ホームの建築においては、鉄筋コンクリート建築が主流だった。緊縮財政にある中で補助金は期待できない。そんな中で、木造ツーバイフォー建築は、イニシャルコストを削減したいという課題に見合ったものであった。
 
雑誌記事でツーバイフォー建築についての情報を得たことで、同法人では、坪単価90万円で予算立てしていたものが50万円台で建築可能ということに期待し、急きょ鉄筋コンクリート建築からの方向転換を決意したという。
 
中山氏は実際の建造物をいくつか見学してまわり、木造で充分いけると判断した。ただ、検討していた鉄筋コンクリート造の設計図をそのままツーバイフォー建築に転用したため、天井高が木材の規格の長さを超え、より多くの木材が必要となり、その分想定より建設費がかかった。天井走行リフトなどの設備投入やその他の諸事情もあり、最終的に坪当たり75万円程度となった。しかし、今回の建築によりノウハウが蓄積され、今後もし新棟を建築することになれば、坪単価は70万円ぐらいに抑えられるのではないかと、中山氏は予測する。
 
コスト計算に当たっては、償却までを見据えておくことが重要だ。高齢者人口はしばらくしてピークを迎えた後は頭打ちになるため、木造建築が17年で償却できるということも大きなメリットである。

木が癒やし効果をもたらし 高気密で暖房効率も高い

こうして、2棟のツーバイフォー耐火構造建築が、2012年8月着工した。2013年3月に特養が、7月にはメディカルケアセンターが完成した。組み立て設置する工事は短期間で完成し、中山氏は、その工期の短さに驚きを覚えたという。加えて、枠組み工事の堅牢さなどを見て、耐震性についても納得を深めた。
 
4月にオープンした特養「金谷みちのく荘」は、特養29床(3ユニット)とショートステイ11床(1ユニット)で構成され、地域交流ホールを併設している。一方、8月から稼働している「みちのく荘メディカルケアセンター」は、1階が、クリニックとリハビリテーションセンター、訪問看護ステーション、デイケア施設、2階はショートステイ施設で、全室個室30床。さらに、文化芸術スペースとして、美術館も併設している。
 
利用を開始してみて、中山氏が最大の効用だと実感しているのが、木のぬくもりである。日本人には馴染みの深い木造建築は、木の香りや温かみが感じ
られ、癒やし効果が得られているという。
 
木造ツーバイフォー建築は、イニシャルコスト削減に加え、ランニングコスト削減も大きな魅力だ。特養は4月に開設したが、雪国であり5月半ばまでは暖房が必要だ。ツーバイフォー建築は気密性、断熱性が高いため、従来より光熱費が20~25%削減された。一冬を越してみなければ、厳密な比較はできないが、十分に手応えが感じられる効果だ。
 
また、セントラルヒーティングでなく、居室ごとにエアコンと給湯設備を設置したが、これは故障が起きた場合にもメンテナンスしやすいというメリットがある。ランニングコスト削減効果は、長期に使い続けるほど、よりメリットが実感できる。
 
木造ツーバイフォー建築は、耐力壁の関係上、建築中において変更が難しいケースがあるため、綿密な事前設計で設計図面を作りこむことが重要だ。施工前段階において時間をしっかりとる必要があるという。

天井走行リフトと介護研修用 カメラ設置で介護の質向上

2棟の設備には、2つの大きな特徴がある。1つは、天井走行リフトで、介護はベッドから車いす、車いすからトイレや浴槽など、移乗にかかわる仕事が多いが、リフトを用いれば負担が大幅に軽減され、女性や年配のスタッフであっても容易に介助ができるようになる。
 
もう1つが、介護研修用カメラで、固定式と移動式追尾型の2種類のカメラを、合計45台設置した。職員がどのようなケアをしているか確認できる。この映像を基に研修を積み重ねることで、介護の質を高め、新人職員が早く習熟する効果を狙っている。また、転倒などの事故発生の決定的瞬間を捉えることもできる。どのような原因で事故が起きたか、どういうケースに事故が起こりやすいかを検証し、事故を減らすことも可能だ。
 
中山氏は、「時代を先取りする施設ができた。これらを核に、IT機器も活用した新しい介護を展開し、団塊の世代のニーズに応えたい」と結んだ。
 
利便性が高く、ぬくもりに満ちた建造物は、入居者にとって好ましいものであるのはもちろんこと、介護人材の確保という至上命題にとっても優位に立つことができるのではないだろうか。

青森社会福祉振興団の地域ネットワークと特別養護老人ホーム金谷みちのく荘