2012年 6月
日経ヘルスケア :  

ツーバイフォー工法による高齢者福祉施設建設の取組み

中村 孝
社団法人日本ツーバイフォー建築協会
公共建築物技術委員会 委員長

社団法人日本ツーバイフォー建築協会は、ツーバイフォー建築の普及のため、建材・工法の調査研究を行っている機関だ。中村氏は、木造の持つ居心地のよさや環境・コスト面での優位性を活かした公共建築物を促進する活動を行っており、ツーバイフォー工法を高齢者福祉施設づくりに採用することのメリットを解説した。

実績が証明するツーバイフォーの特長

ツーバイフォー工法とは安全性と快適性に優れた木の住まいで、全国で約200万戸の実績がある。その特長のひとつに、優れた耐震性能がある。中村氏は、調査団を派遣して得られた結果として、阪神淡路大震災では約97%、昨年の東日本大震災では津波被害地区以外で約98%が地震後に補修をせずに居住できたことを明らかにした。構造用面材が屋根、床、壁を構成することで、地震や風圧による外力を均一に負担するため発揮できる性能だという。

また、耐火性能にも優れている。壁、床、天井が構造的に区画されたファイヤストップ構造で火が回りにくい躯体であることに加え、構造の表面を耐火皮膜材で覆うことで優れた耐火性能を発揮する。日本ツーバイフォー建築協会では、カナダ林産業審議会と共同で2004年にツーバイフォー工法による耐火構造の国土交通大臣認定を取得している。この認定により、3階建て以上の店舗・病院・学校・ホテル等、2階建て以上の幼稚園・特別養護老人ホームと用途が拡大し、ツーバイフォー建築の大型化、3階化が進んでいる。

この認定を使用したツーバイフォー施設系建築物は近年着工棟数が拡大しているが、その約8割が社会福祉施設であることから、公共建築分野での評価が著しいことがわかる。2010年度からは国土交通省の「木のまち整備促進事業」が施行され、木造の公共施設に対して補助金制度が実施されるなど、国の施策も木造を後押ししている。

ツーバイフォー工法の設計の留意点

中村氏は、大型ツーバイフォー建築を施行するためには、従来のRC造・鉄骨造で培われた技術を応用しながら、さまざまな工業化技術を取り入れる必要があると述べた。施設建築として重要な設備配管や電気棟配線はビルと同じような考え方で導入し、ビル用の部品も使用する。維持管理に配慮するために、1階床下の「大型ピット」を設置、1階天井を「軽天施工」として、ふところを十分に取る等の留意が必要とした。

ツーバイフォー工法は、その特性を生かした計画により、多様な可能性を持つ工法だ。居住棟は木のやさしさを活かした木造で、管理棟はRC造でというように、他の建築工法と組み合わせることで、よりパフォーマンスの高い設計を行なうことも可能だという。

木材がもたらす環境と人への影響

木材そのものにも多くのメリットがある。まず地球環境に負荷が少ないこと。木材は空気中のCO²を樹木が有機物として定着・固定化したもので、長期間使用すれば大気中のCO²削減に寄与するエコマテリアルだ。2010年開設の特別養護老人ホーム「りんどう麻溝」(神奈川県相模原市)の例では、炭素固定量の概算は294.2t-Cで、同規模のRC造と比較すると約3.8倍もの炭素を固定化し、地球環境に貢献しているという。
 
人へのメリットは、木の持つ癒し効果に加えて、温熱・湿度環境のよさがある。木材は室温に対して人間より早く温まったり冷えたりするので、人が建物に熱を奪われたり、逆に熱せられるということがなく、快適な感覚で過ごすことができるのだ。木材の断熱性の高さは、暖房費などのランニングコスト削減にも貢献。衝撃吸収性にも優れており、「転んでも骨折しにくい」と言われるように、木材の柔らかさは感覚的・肉体的にやさしさを与えてくれる。
 
また、一般的に木造はRC造に比べ、衝撃音が階下に伝わりやすいとされているが、実際の高齢者施設での測定では、床遮音対策を施した場合、RC造並の遮音性能を確保するとの結果を報告した。

ツーバイフォー工法のコストの優位性

施主にとって大きなポイントとなるのはコストだが、木造耐火建築のコストはRC造に比べて約85%程度に抑えることが可能だ。ただし、地域によってコスト比が異なることも注意しておきたい。
 
中村氏は耐火ツーバイフォー工法による2階建て、3階建て、鉄筋造の3階建て、RC造の3階建てのコストを比較したシミュレーションを披露した。それによると、設備や電気ではどれも同じだが、木造は躯体が軽いので地盤補強の杭工事が軽減できること、全体の工期が短縮できることから、コストが削減できるという。コストバランスが一番効率的なのは、耐火ツーバイフォー工法による2階建てだ。木造でも3階建ての場合は地盤工事が必要になるからだ。

【図1】はRC造3階建てから耐火ツーバイフォー工法2階建てに変更した事例だ。 16ヵ月の工期予定を11ヵ月に設定し、坪当たりのコストも5万円下げ、それらの目標を実現したという。
 
木造の場合、償却期間が17~20年と短く設定されていることも、事業者にとって有利なポイントのひとつだ。運営のアドバイスとして、減価償却費を経費にできる17年間は大きな改修をせず、20年目で大規模改修を行なう、5~10年単位での定期点検を行ない、大規模改修に備えて保全積立を行なうことを勧めている。
 
また、ツーバイフォー工法の建築物は日本では大正8年建設で築80年を超えた建物が残っており、維持管理を適正に行なうことで、50~100年超まで耐久性があることが実績として証明されている。

事例からみるツーバイフォー工法の実際

中村氏はツーバイフォー工法による大型福祉施設の事例を動画を交えて紹介。前述の「りんどう麻溝」が既存の住宅地の中で違和感無くとけ込んでいる様子を映した。施設建設においては、周辺住民の理解を得ることも重要で、木造耐火建築の場合、見た目も安全性も理解を得やすい要素となっている。中村氏は、木造は太古から人間が建築に用いてきた素材で、木は成長が終わっても木材として住宅環境を構成する上で人間の役に立っていると話し、高齢者に最適のマテリアルであることを強調した。
 
近年、大幅に伸びてきたツーバイフォー工法による高齢者施設だが、「施設はRC造しかできない」と思っている施主もまだ多いようだ。日本ツーバイフォー建築協会とカナダ林産業審議会では、安全で快適な福祉施設の建築の一助となれるよう、計画・設計の手引「ツーバイフォー工法による高齢者福祉施設のすすめ」を制作した。施設建築を考えているなら、一読をお勧めする。

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